ーーがんの新しい薬(分子標的治療薬)の治療ーー

H14/9/7日:愛知病院長有吉寛医師の公演より

●“がん”の特徴は・・・
 (1)限りなく増え続ける細胞(無限の増殖)である。
 (2)“がん”の細胞(原発巣)はよそえ移動(転移)する。これにより正常な細胞に働きを阻害し人を死に至らしめる。
●“がん”はどこにでも出来る。
 (1)臓器がんーー胃がん・肺がん・大腸がん・乳がん・子宮がん・肝がん・膵がん・・等
 (2)血液がんーーー白血病・悪性リンパ腫(ホジキン病・非ホジキンリンパ腫・・・等
   “がん”は、始めできたところの名前で呼ぶ。例えば、肺がんが肝臓に転移しても       
    肝臓がんではなく、肺がん(転移性肝がん)と呼ばれます。
“がん”の細胞の性格は、・・・
人の性格と同じように病気に掛かった人によって細胞の種類が異なりまた同じ人の“がん”でも細胞が異なる場合もある。だからそれぞれの細胞の性格で治療が異なることが望ましいが現在の医療ではまだそれができないが将来はその様な医療を目指したい。
●“がん”の治療について・・・
 (1)局所治療:手術(早期がん)・放射線療法(早期がん、局所進行がん)
 (2)全身治療:薬物療法(科学療法、抗がん剤による治療、進行がん、術前/j術後がん)
 (3)集学的治療:手術、放射線療法、薬物療法の二つまたは三つを一緒に行う治療
●日本では“がん”の約50〜55%が治っています(5年生存率)
   早期がん手術が可能で治癒率が高く、進行がんは全身に広がり治癒率が低い
●今までの抗がん剤治療の特徴
 (1)注射や点滴や内服で投与し、全体にゆきわたり、がん細胞を殺す(全身治療)
 (2)がん細胞により効果が違う(薬物感受性)
 (3)多種類抗がん剤を一緒に使用(多剤併用)、他の治療法と一緒に施行(集学治療)
 (4)必ずしもがん細胞だけでなく、正常な若い細胞を攻撃する(副作用)
●抗がん剤治療の効果
 (1)効く確率が80%以上: 白血病・悪性リンパ腫・睾丸腫瘍
 (2)効く確率が50%〜80%: 小細胞肺がん・卵巣がん・乳がん
 (3)効く確率が20%〜50%:非小細胞肺がん・胃がん・大腸がん・膀胱がん・など
 (4)効く確率が20%以下:肝臓がん・膵臓がん・腎臓がん・など
●分子標的治療薬について・・・
 (1)がん細胞と正常細胞の構造やがん細胞の増え方や転移の仕組みの違いが分かってきた。
 (2)がん細胞の特徴であるそうした性格を攻撃すれば、正常細胞に影響が少ない。このような目的で作られた薬を分子的標的薬という。
 (3)分子的標的薬の特徴
  @がん細胞を殺すのではなく、増えたり転移することを防止(がん細胞と共生)
  A正常細胞に影響が少ないため、副作用がすくない。(症状改善に役立つことが多い)
  B予め標的が解れば、その性格のがん細胞を効率的に攻撃する(個別化)
●現在の医療で使用できる分子標的薬剤
 (1)ハーセプチン(乳がん):特別な遺伝子(ErbB2)が関係する乳がんを検査で選び抗がん剤(タキソールなど)と併用すれば50%以上の効果が得られる。(点滴)
 (2)リツキサン(悪性リンパ腫): B細胞リンパ腫で、細胞の表面に特殊な蛋白(CD20)を持つ場合(ろ胞性・マントル性)に抗がん剤治療(CHPO療法)と併用する(点滴)
 (3)グリべック(慢性骨髄性白血病):慢性骨髄性白血病の原因となる酵素(Bcr−AbIチロシキナーゼ)のさようを阻み、細胞増殖を防ぐ90%以上の確率で効果がある。(内服)
 (4)イレッサ(非小細胞がん):がん細胞が増える因子(がん細胞の栄養分)を受け付ける部分の働きを抑えると言われていわれている。平成14年8月30日に健康保険使用が厚生労働省から承認され、現在、最も注目されされている薬剤の一つであるが、その最適な使用方法などは今後の研究が必要、肺がん緩和医療に役立つ可能性が高い。
 (5)21世紀のがん薬物療法は分子標的薬の開発が中心になり、がん治療が“がん”細胞の性格にあった薬で行われる(がんの個別化治療)可能性が大きいと予測される。
●エビデンス・ベイスド・メディスン(EBM  Evidence-Based Medicine)
 (1)日本語では「事実にEvidence)基づいた(Based)医療(Medicine)」と言う。
 (2)ここでいう事実とは「臨床試験の結果で証明されたこと」を意味することが多い。
 (3)分子標的薬の開発にも「臨床試験」は欠くことが出来ない。
 (4)医学の進歩は「臨床試験」によってのみ支えられる。

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