水源地を訪ねて・・・三河湖
このダムの水源は、旧作手村(現新城市作手地区)です。自然環境に恵まれたこの高原(作手高原)は、愛知の軽井沢と称される場所のひとつです。作手村のユニークな点は「泥炭層」があることです。若い研究者さん 泥炭-フミン質-鉄をキレート-植物プランクトンと関連付けて研究してくださいませんか。
作手の地学上の特質
作手地区は、地質学でいう隆起準平原である。標高は約550m。集落は標高差100m前後の低い山々に囲まれた作手高原の盆地に集まっています。中央部諸地区では土地利用率が高い農業が盛んな地域です。この地域の南部・北部は谷の侵食が進行中の若い山が多く、肥沃な林地となっており、良質な三河材の産地となっています。

作手高原は降雨が多いことでも知られています。作手気象観測所の数値では年間約2300mmあり、日本の平均的な数値よりも800mmも多いことが分かります。季節毎の比較では、夏に雨が多い特徴があります。これは、浜名湖方面からの湿潤な大気の流れが、作手高原で上昇し雲を形成することに原因があるとみられています。愛知の軽井沢と称されながら、観光地としていま一つなのは、アクセスの問題に加え、夏に雨が多い;晴天率が低いという気象条件に原因があると言われることがあります。
作手の土質の母岩は花崗岩と領家片麻岩です。作手高原を観察して目を引くのは、母岩が風化してできた赤土の巨礫層と、泥炭層です。また、赤土の巨礫層が、三河湖に近い善夫から黒瀬にかけてと鴨ヶ谷から相寺と赤羽根の間の峠にかけて観察され、幅2.5km、長さ5km、厚さ50〜150mと推測されている。
作手地域でもう1つ特色があるのは泥炭層です。泥炭をうかがわせる堆積物を、現在も長ノ山湿原でみることができます。この泥炭は、約8000年前に作手高原の南北に伸びる平坦面が浅い湖となって周りから土砂が流入し沼地になっていたことが発端とみられます。
泥炭層は農地として使い難く、土地改良により、表面的には作手全域から姿を消してしまいましたが、作土の下に、現在も厚さ3メートルの泥炭層が残存しているとみられています(名古屋大学大野原湿原研究グループの調査報告)。長ノ山の泥炭地帯は「長ノ山湿原」あるいは「作手中間湿原群」と呼ばれています(県天然記念物)。泥炭層の土壌は、腐食酸を含み酸性が強い特色があり、愛知県内で唯一の存在です。

鴨ヶ谷、長者平付近にも大野原湿原と呼ばれる湿原があったが、現在はその面影は残っていません。
作手地区に泥炭層が発達したのは、作手地区の標高が高いこと、南東方向から湿潤に富んだ気流があり、夏でも曇りがちで降水量が多いことなどによると言われています。
一般的に泥炭層の浸出水には、フミン質が多いとされます。フミン質には、キレート作用があり、金属類の溶出促進をすると言われています。一方、植物プランクトンの増殖には、溶存鉄が必要とされており、フミン質が、下流域でのプランクトン増殖に関係している可能性があります。 三河湖の水質悪化に関しては、作手地区で盛んな畜産業や農業が原因という見方がされてきましたが、事はそんなに単純ではないのかも知れません。
環境関係のトピックスとして、雨水にアンモニア態窒素が含まれているというものがあります。水源調査では、降雨との関連を理解していないと大きな勘違いをすることになりかねません。群馬高専の青井らによると、1ppm程度の数値(酸化窒素と同程度)が報告されており、このことは、第4次酸性雨全国調査報告書(H19年度)で全国的なものと確認できます。教科書的には、「水源でアンモニア態窒素が検出される場合糞尿系の新鮮な汚染がある」となりますが、要注意です。
ちなみに、雨水中のアンモニア態窒素は、自動車の排気ガス由来と考えられています。
(参)「愛知の人口のあゆみ」700万人突破記念誌
「東三河台地のなりたち」菅谷義之 竃L川堂
「作手村誌」 S57.3.31 作手村教育委員会
「愛知県南設楽郡作手村の大野原湿原及び長ノ山湿原堆積物の14C年代測定」
名古屋大学年代測定資料研究センター、大野原湿原研究グループ
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