300BPP真空管アンプ

2A3真空管アンプのページで2A3シングルステレオアンプについて書いておりますが、小型コンパクト、高音質、長寿命と、良いことばかりです。なのに何故か新しいアンプを作りたくなります。人間の性でしょうか。
2A3がこんなに良いのだから、300Bはどれだけ良いのだろう。とか、シングルでもこれだけパワー感があるのだからプシュプルにしたらどれ程凄いのだろう。とか、妄想がどんどん深まります。
そんな時、職場の50代の先輩が「一緒、一緒、みんな同じだよ。」みたいな事を言っていました。また、「3極管、5極管、ビーム管どれも一緒」とも言ってました。まだ30代前半だった私は「そんな訳ないでしょ。」みたいに反論しておりましたが、実際には2A3シングルしか使ったことがなく、(雑誌等からの知恵はありましたが。)ペーパー知識のみの反論でした。「じゃあ貸してあげるから聴いてみな。50CA10でも6CA7でも6RA8でも300Bでもどれでも持って行っていいよ。家まで取りに来たら。」と言うので、「え、300Bでも良いの?」球だけでも10万円を超えるものです。(牧田さん貸していただいてありがとうございました。)と言う訳で、しばらく我が家のアンプは、2A3シングルから300Bシングル(WE91Bタイプ)に切り替えて使用しておりました。

その時の感想ですが、「あれ?同じじゃん?」です。自分の持っている2A3が300Bと同じであると考えれば嬉しいのですが、世の中の300Bが2A3と同じであるなら悲しいと言うべきです。オーディオ専科名古屋店の師匠が言っていたとおり「300Bみたいなものは、散々球をいじってみたもんにしか分からん。」のでしょうか。

今、自分が50代になってやっと分かることなのですが、音楽を聴くのに特別な球なんてありません。当然、300Bなんて特別な球ではないのです。(特別に高価ですが。)蓮舫さんのように2番目でも十分なのです。「分かった。2A3があれば十分、パワーが足りなければ石で聴けばいいや。」って感じです。(世の中の300B評価は、重箱の隅をつつきまくったものではないでしょうか。)

WE91Bタイプの評価

しかし、当時の私は、借りてきたWE91Bを次のように評価しました。(すみませんでした。)
① シングルだから同じ音の傾向になる、プシュプルならもっと力強いはず。
② プレート電圧が低すぎパワー感が損なわれている。(でも自己バイアスが好き。)
③ カップリングコンデンサーがフィルムなのが悪い。(メタルケースのオイルコンが好き。)
と勝手に解釈し、新しくアンプを作ることにしたのです。(私も若かったんですね。)

ところで、貸していただいたこのアンプですが、アルコールで掃除した時に、球のベースの「Western」の黄色い印刷の「W」が消えてしまいました。(牧田さん、すみませんでした。)
今時アルコールで消えてしまう塗料なんて。ガーン。(米製品は変なところで手抜きがあります。)
だから、と言う訳ではないのですが、カップリングコンデンサーは、フィルムからマイカに付け替えております。(超高価だったので「Wの悲劇」の件はお許しください。)

2A300Bプシュプル真空管アンプの設計

次の条件でアンプを設計してみました。
① 300Bのプシュプルアンプで、球は2A3に差し替え可能なものにする。(2A3には拘りたい。)
② 安全を考え自己バイアス方式とする。(上下も個別にバイアスする。)
③ プレート電圧は可能な限り高くする。
③ シンプルな3段構成とし、全段を3極管とする。(3極管に拘りはないが、複合管が使えるため。)
④ NFBは必要最小限とする。(10dB程度)
⑤ カップリングコンデンサーはオイルにする。
⑥ 電圧利得は少なくとも20dB以上にする。

当初、ツインモノにする考えはなかったのですが、300B、2A3のコンパチ方法の関係でそうなりました。

出来上がったのがこれです。(出力管は300B)
300Bを使用するか2A3を使用するかは、カソード抵抗、プレート電圧、フィラメント電圧を内部のスイッチで切り替えます。電源トランスはノグチトランスのPMC-170Mを使用しましたので汎用性が高く、どちらの球にも使用できます。

参考になったのはP-260

回路はアキュフェーズのP-260にヒントを得ました。P-260はスイッチ切り替えにより純A級30W、B級130Wを切り替えます。その時バイアス電圧を切り替えるとともに、終段の供給電圧も切り替えます。その切り替え方法が強引で、スイッチでトランスのタップを切り替えます。純A級時は23Vタップ(DC∓30V)、B級時は50Vタップ(DC∓70V)です。A級からB級への切り替え時の突入電流は大丈夫なのでしょうか。初め、動作中にそんなことしたら壊れるんじゃないか、とか、雑音が出るんじゃないかと思いましたが、使ってみると至って良好です。アマチュア的な発想ですが大成功と思います。実際はオムロンのMY4型リレーで切り替えていますが、リレーとは元々そんな電力用途のものなので、スピーカー出力の保護に使われるのよりも動作が良好なのかも知れません。ちなみにP-260のバイアス電圧の切り替えは、フォトカプラを用い電子的に行っている様です。

 

シャーシは特注品

シャーシはツゲ電機のオヤジさん(ツゲ電機のオヤジさん元気かな?)に発注しました。これだけのものになりますと既製品では作れません。ツゲ電機のオジさんは趣味で真空管屋をやってる様な人で、(本業とは別に)こんな趣味の金物を採算度外視で製作していただけました。塗装も精度も抜群で、バイアスのテスト端子(ハムバランサーの右横の端子)なんかの変形穴にも対応していただけました。
納入の日に店まで取りに行くと他のお客さんから「凄いもの作ったね。電車で持って帰るの、重いぞー」と声をかけられましたが、オジさんは「好きな人にとっちゃー全然重くないよなあ」と言ってくれました。結構重かったけどニコニコして帰ったのを覚えてます。ツゲ電機では、ピアレスから特許の承諾をとってトランスを製造しておりましたが、今だ使っておりません。WE300Bと同じく、死ぬまでには使ってみたいなーって感じです。(WEもピアレスも憧れの存在でした。)
実は、私、汎用品が大好きです。理由は、まず安い、それと普遍性があり、耐久性もある、そんなものが大好きです。長岡鉄男さんが言っていたのですが、水道のホースは安いものが最も性能が良くて長持ちするそうです。世の中そんなもんかも知れません。ちなみに出力トランスはタムラのF783で、これも昔からの汎用品です。

 

特殊な使い方

300B、2A3の切り替えは5個のスイッチで行います。リレーなんかより信頼性は高いのではないでしょうか。複数のスイッチにしたことにより、2A3を高いプレート電圧で動作させることもできます。(ロシア管なら可能かな?RCA管では心配で、中国管では危険で試せません。)300Bを低いプレート電圧で動作させることも可能ですが、どこまでセコイんだと言われそうで(球は長持ちしそうでですが音は期待できません。)やってません。勿論、電源を切った状態で切り替えます。

回路図

回路は以下のとおりです。

 

 

出力管、ドライブ管

図面の日付が平成29年となってますが、それはメンテの日付で、実際の製作は平成12、3年の頃です。出力管はスベトラーナ300B、ドライブ兼位相反転管が6SN7です。全体の利得は26dB、NFBは13dBと調度良い感じではないでしょうか。言うの忘れてましたが、当然WE300Bなんて高価で使えません。と言うかスベトラーナで十分です。ネット情報でWE以外クズみたいなものもありますが、(あるいは、ロシア製でもまあまあって感じで書いてあるものが多い。)そんなことはありません。セトロンでも中国でもロシアでも北欧でも選別さえされていれば性能、音質ともに変わりはありません。(2A3、300B同一論者の言うことですからあてにはなりませんが。)

初段管

初段管は高μの6SL7を使用しております。以前、手持ちの関係で中μの6SN7を使用していましたが、総合利得が低く、音に活気がないクラシック向きの音質だったので、現在の6SL7となっております。WE91Bも初段管に高利得な5極管の310Aを使用することにより高音質を得ております。初段に310Aではなく、76なんかを使用したら全く違う音質のアンプができるのではないでしょうか。5極管を嫌いな人もいますが、QUADⅡなんかは初段兼位相反転兼ドライブ管が5極管のEF86、終段管がビーム管のKT66とシンプルな構成ですが凄く良い音です。何事も偏見を持ってはいけません。
位相反転は、私の好きなカソード結合(差動増幅)です。位相反転ができて増幅もできるなんて素敵です。

フィラメントの交流点火

フィラメントの直流点火はしておりません。プシュプルの場合はハムバランサーのみで十分対応できます。2A3ならばシングルでもハムバランサーのみで十分なくらいです。ここはシンプルに行きましょう。(実は直流点火にすると300B,2A3の切り替え回路が複雑になり製作困難です。)
B電圧にダイオードを多く使用しているのは、余ったからではありません。ツゲ電機のオヤジさんからのアドバイスで、シリコンダイオードを直列にすることで整流管と同等の音質を得るためです。

スベトラーナの300Bとソブテックの2A3です。どりらも大変よくできています。スベトラーナはクワッドペアで購入しましたが、1本はフィラメントとグリッドが接触(通電していると直るのですが、立ち上げ時にバリッと雑音が出る。)することがありましたので、返品交換しました。WE製ではこう言うことは少ないようですが、サードパーティはちょいちょいあるようです。

2A3で使用していた頃の写真です。完成直後の頃かな。(2000年頃)印画紙変換でアナログっぽい画像です。球のベース部分に「TAC」のシールが貼ってあります。(幸田町のTACのおっさんも元気かな?)

音質・雑感

ツインモノよりもモノラル2台にすれば良かったかなとも思います。アンプも20kg以上ありますと動かすのが大変です。小池レコードの爺さんの様に死ぬまでレコードを聴くためには小型の装置の方が良いと思います。
数年前、その様に思い付き、ラックスのA3500が欲しくなりました。入手できたら、このアンプを売り払おうと計画しました。その後A3500は入手したのですが、このアンプを売り払うことができません。(友人に売り飛ばしそうになったのですが、無事無罪放免となり、今だに家に置いてあります。でも今は、手放さなくて良かったと思ってます。)
こう言う、モノを手放すことは、女性の方が決断(切り替え)が早いそうですが、男はダメです。男の脳は積み重ねで成り立っているんですよね。(ものを捨てられない男、最悪です。)

ところで肝心の音ですが、冒頭に書いたとおりです。2A3シングルをスケールアップした素晴らしい音質です。(言い方次第ですが、結局2A3と同じなんですよね。)
しかし、出力の差はありますので、その点では優位です。スピーカーの能率が90dB以上あれば近所迷惑な音圧を発生できます。2A3シングルでも結構近所迷惑なくらいですから。(でも、爆音で聴きたい時はMOSFETで聴けば良いんですよね。)

300Bの魅力

言うの忘れてましたが、300Bは、どのメーカーも真面目に作っているようで、蛍光がとても綺麗です。スベトラーナなんかでもガラス面全体が青く光ります。貸していただいたWE300Bは、2本が全く同じように光ってましたが、スベトラーナは多少のばらつきがあります。
この美しさは写真では伝わらないことなのでアップしておりません。淡い青の光がゆっくり管面を動く様子は、夜中に部屋の電気を消し1時間くらい眺めていても飽きません。(もしかしたら、300Bの魅力はそこかも知れません。)
この現象は真空度の高い球に現れますが、ぼけた球にもグローとして青く発光する場合があるようです。蛍光の場合はオーロラのようにゆらゆらします。また、磁石を近づけると変化します。