オープンリール

オーディオが好きな人達って、電気が好きなのは勿論、大抵、機械も好きではないですか。その欲求を満たしてくれるものの代表格がオープンリールテープデッキだと思います。そもそもオーディオ好きは回転するものが大好きで、初期のCDプレーヤーなんかは、CDをトレイに垂直に挿入し、全面の窓から回転する様子が確認できるものが多数ありました。
オープンテープデッキは10号リール(10インチ径)が供給側と巻取り側に2個もある訳ですから壮観です。それにリバースデッキだったら逆方向にも回りますから1日中見ていても飽きません。(小型のものに7号リール(7インチ径)専用のものもありました。)
肝心な音ですが、現在のPCMレコーダーに完全に負けるのは当然、最後期のカセットテープデッキと比べても勝つか負けるか分かりません。しかし、カセットみたいな不安定要素は少なく、古くなっても、そこそこの音は期待できます。私の家のデッキはTEACのX-10Rと言う機種で発売から40年以上経過しておりますが、バリバリに動きます。PCMレコーダーだったら40年以上はとても使えません。

X-10R

 

これが現役で使っているTEACのX-10Rです。10号リールのオートリバース機ですから往復180分の録音ができます。ハーフスピード(9.5cm/s)にも対応しており、その場合は往路だけで180分の録再が可能です。パソコンやPCMレコーダーがなかった時代には、録音時間最長を誇ってました。
しかし、テープの宿命としてヒスノイズと言う「サー」雑音は避けられません。当時、カセットテープデッキにはドルビーノイズリダクションが標準装備されていましたが、オープンリールテープデッキで実装されたものはありませんでした。S/Nは50から60デシベルと言ったところで、クラシック音楽などを再生する場合にはバックの「サー」ノイズが少し気にかかります。
背面にDBX等のノイズリダクション装置を接続する端子がありましたが、使われていた人は少ないようです。私もDBXは持っています。S/Nは向上し雑音は、なくなるのですが、音がHiFiビデオデッキみたいに不自然になるのです。
そのままの方が素直な音質で好感が持てます。市販のミュージックテープ(生テープではなくレコード会社から音楽媒体として売っていたテープ)でもノイズリダクションはかけられていませんでした。売る方も買う方も納得して使っていたようです。レコードの針音と同じで避けられないものと思われていたのでしょう。
デジタル時代になり、そういう機器の欠点は一掃されました。でも何か寂しくないですか。音楽も機器も優等生ばかりです。
たまにアマチュアバンドのライブを聴いたりすると昔の文化祭で聴いた音の記憶が蘇り、懐かしい気持ちになります。でも、30分も聴くと飽きて嫌になります。人間って本当に贅沢な動物です。
現在、ライブ会場でPCMレコーダーを持っている人をたまに見かけますが、昔は背負子に2トラ38を担いでライブ会場に乗り込んでいた強者もいた様です。

オープンデッキは各社真面目に作られており、フォワード側とリバース側で異なる再生ヘッド、録音ヘッド、消去ヘッドが使われ、計6個のヘッドで構成されています。回路はLR、1式しかありませんからスイッチで切り替えますが、その数なんと24個(9連スイッチが2個、6連スイッチ1個の計24個)と言う構成です。(写真では消去ヘッドがピンチローラーに隠れ見えません。)何でそんなに沢山のスイッチが必要かと言いますと、ヘッドを切り替えるほか、レベル調整、イコライザー調整等の調整部分もヘッドに合わせた調整値に変わりますから、調整用の半固定抵抗器をすべて切り替なければならないためです。それならアンプ部分を4式(フォワードL、RとリバースL,R)準備した方が単純かと思いますが、ICが一般的でなかった時代ですから、24個のスイッチをソレノイドで一気に切り替えることになったのと思います。

メンテナンス

40年以上動作すると言ってもPCMレコーダーみたいにメンテナンスフリーと言う訳にはいきません。電気部分だけでなく、機械部分もありますから、それなりに保守してやらないと正常に動作しません。
とは言えカセットテープデッキに比較し個々の部品が大きく、機械が単純、基本3モーターで、機構が単純なのでメンテは簡単です。定期的な交換部品等としては、
① キャプスタンベルト(テープ送りを正確な速度で行うためのベルト)
② キャプスタンモーター(テープ送りを正確な速度で行うためのモーター)
③ キャプスタンローラー(だんだん硬くなってきます。安価、簡単なので交換しましょう。)
④ その他、機械のグリスアップ、電解コンデンサの取替え、各種スイッチの清掃
があります。
(ヘッドはアマチュアでは交換できません。アッセンブルされたヘッドブロックだったら可能かな。高いからやらないけど。)

①は大体10年毎で、使おうと思えばそれ以上使えますが、ゴムベルトですから伸びてしまい、リバースへの切り替えがスムーズにいかなくなります。また、デュアルキャプスタンのリバース機は、巧妙な構造でテープにテンションをかけ、ヘッドに密着させる構造となっており、ベルトが弛んでスリップするとテープにテンションがかからず、テープガイドからテープが外れ、テープが傷ついてしまいます。
②は使用時間により交換が必要です。キャプスタンモーターは正確な回転、強いトルクが必要なためブラシ付きサーボモーターが使われています。ブラシには寿命があります。交換は簡単ですが、モーターの取り付け時にスラストワッシャ(3個の固定ネジの内、1か所だけ2枚のワッシャを取り付け、モーターを微妙に傾ける。)を付け忘れると左右のキャプスタンの回転速度速度が規格から外れ、①と同じくテープがテープガイドから外れます。
③も消耗品で300円くらいです。子供でも替えられます。
④今回はオーディオ基板のリバース切り替えスイッチの清掃をしました。実は、リバース再生の調子が悪くなっていたのです。
↓赤い線の部分がそれです。

リバース切り替えスイッチの清掃


↓ 右中央がリバーススイッチ群を切り替えるソレノイドで、金属バーを右にスライドさせ、下に出した爪によりスイッチを切り替えます。


↓ ソレノイド板を外すと爪と3つのスライドスイッチがあります。


3個の細長いスライドスイッチを基板から取り外し清掃します。清掃はアルコールでも溶剤でも構いません。その後が問題なんです。そのままにしておくか、オイルを塗布するかです。
買ったばかりのスイッチはオイルが塗布してあります。これは必要なものなのか、もしかしたら、このオイルの経年変化のために接触不良が起こるのではないか、でもオイルがなかったら接点が摩耗し接触不良になるのではないか、と色々考えてしまいます。
今回は3日間考え、ほんの少量ナノカーボンを塗布することにしました。間違ってるかも知れませんが、その時はまた清掃します。まあ後20年も動いてくれれば御の字です。
下の写真はスイッチを分解したものですが、固まったグリス?のために接点が茶色っぽくなってます。油汚れクリーナーと綿棒で掃除するとピカピカになりました。

↑ 摺動子は右の写真の様に紙に溶剤を浸み込ませスリスリします。


↑ 9連スライドスイッチが半固定抵抗器を切り替えているのが分かります。(基板に穴が開いている箇所が半固定抵抗器で、穴にドライバーを突っ込み調整します。)
ホントこの設計って合理的なのでしょうか。
今回はついでにキャプスタンベルトと録音用ラインアンプの半固定抵抗器(トリマー)を交換しました。これでまた10数年は使えそうです。


↑ このデッキですが、信号用の電解コンデンサーにはモールドタイプのものが使用されていました。当時の高級なオーディオ製品によく使われていたオレンジ色の電解コンデンサーですが、これは一体どんなタイプの電解コンデンサーなのでしょうか。日本ケミコン製でLRと表示されたもので、端子部分はゴムキャップではなく、樹脂で封入されてました。(OSコンデンサーみたいな感じ) 今でもそれが何か分かりませんが、容量抜けがあると鬱陶しいのでタンタルコンデンサーに替えました。タンタルコンデンサーは電源回路に使用すると稀に壊れてショートしますが、信号用に使うには良いコンデンサーです。フィルムコンデンサーと同じく長寿命です。
また、しょうがないんですが、使ってる調整用の半固定抵抗器が安物で、稀に摺動子の接触が悪くなります。イコライザーの調整用のものなら音が少し変わったな、くらいですが、レベル調整用のものだと全く音がしなくなったりします。数年に1回くらい再調整すれば良いのでしょうが、面倒くさいのでなかなかできません。たまに点検すると真っ黒になってました。銀メッキなのでしょうか?これも現行品に交換しました。

TEAC

ここまで書くとTEACと言うメーカーは凄く良い感じに見えますが、TEACのサービスセンターは、昔と比べユーザーに対し冷たくなっています。(TEACだけでなく全体のメーカーがそうなんですが。)まず第一に消耗品の販売を止めていることです。ゴムベルトやピンチローラは消耗品なんですが、それを販売していません。もうないと言うのなら話は分かりますが、あるのに売らないのです。じゃあどうするのかと尋ねると、修理するから送ってくれと言うのです。千円程度のゴムベルトを交換するのに数千円の送料と数万円の修理費用を払うバカ(三河弁では「たーけ」と言います。)が何処にいますか。TEACに理由を聞くと「お客様で交換するのは危険を伴うので販売できない。」と言うのですが、本音は簡単な作業で金儲けしたいのでしょう。ゴムベルトの交換なんて中学生でも可能です。(業界の人に色々尋ねますと、機器のふたを開けること自体、メーカーではユーザーにさせたくない様です。お上の通達か、製造者責任か、何か知りませんが、自分の買った機械のふたが開けられない様な状況で、日本の技術者のタマゴは育つのでしょうか。機器を購入すると回路図が添付されていた時代が懐かしいです。)
ただ、そういうTEACも80年代はおおらかで、サービスセンターにベルトを買いに行くと、手順書までコピーしてくれました。モーターの交換手順やレベル調整、イコライザーの調整まで載ってました。今で言うサービスマニュアルです。
話が戻りますが、TEACには「モーターを含め過去何度も自分で交換してますよ。」と言っているのですが、直接販売はしてないの一転張りです。「たーけたこと言っとんな」と言いたくなります。
個人がダメならと、販売店経由で注文したのですが、それも断られました。(販売店さん、お手数をかけてすみませんでした。)
ところが、インターネットで探せば純正に近いものが手に入る様です。困ったものです。(はっきり言って助かりました。ありがとう。)